子供の時のことを思い出すと、必ず浮かんでくる光景がある。それは3歳ぐらいの時だ
ろうか。私は母親の目の前で両手をかざしている。
「ねえお母さん見てて」
 そう言うと私は黒い煙を想像する。すると全身に走る痛みとともに手と手の間に想像し
た通りの黒い煙が現れた。
「すごいでしょう」
 褒めてもらいたくて私は母親の顔を見る。でもそこには怖い顔で私を睨む母親がいた。
 それが私の一番古い記憶。たぶん他人だったら不幸な記憶かもしれないけど、私にはそ
れが当たり前だったのだ。

Fate/original sin
第一話 処理請負人スイーパー(1)

「・・・てください」
 声が聞こえて私の意識は少しずつ目覚めていく。だけどもっと時間が欲しい。私は寝起
きが悪いのよ・・・
「零、起きてください」
 私を起こそうとする声がする。あともう少しだけ寝かせて・・・
「起きなさーい!」
 突然からだが回転したかと思うと、ゴトンッ!と音がして私は床に落ちた。どうやらベ
ットから突き落とされたようだ。フローリングの冷たい感触が気持ちいい。
「おはようセイバー。起こし方が乱暴になってきたわね」
 私をベットから落とした同年代の少女を見る。セイバーはあきれたように私を見て
「貴方が時間どおりに起きないからです。朝食の準備はできてますよ」
 そう言って部屋から出て行く。私はまだ眠かったが食事の時にセイバーを待たせるとロ
クなことにならないことを知っていたので、起き上がると着替え始めた。

 部屋着に着替えてダイニングに行くと、テーブルにすっかり朝食が並べ終わっていた。
今日のメニューはスクランブルエッグにトーストか。私はハムエッグのほうが良かったん
だけど、作ってもらった手前、言葉に出しては文句は言わないことにしよう。
「いただきます」
「いただきます」
 二人であいさつをして朝食を食べ始める。私はトーストを食べながら朝刊を見始める。
「零、食事をしながら新聞は読まないものです。行儀が悪いですよ」
 言われて私はセイバーの顔を見る。セイバーはあの聖杯戦争に母親の遠坂凛がマスター
として参戦した際に父の衛宮士郎のサーヴァントとして召喚され、紆余曲折のあげく母親
のサーヴァントとなったあと、聖杯戦争後も母親の使い魔として契約している。本名を
アルトリア・ペンドラゴン。かのアーサー王だというから、事情を知ったとき子供心にも
驚いたものだ。まさかアーサー王が女性で実在の人物だったとは・・・。
「零、なぜ人の顔をジロジロと見ているのです」
「いや、セイバーってなんか私の母みたいだなって」
 私がごまかすようにそういうとセイバーはなにをいまさら、といわんばかりの表情をつ
くって私に言った。
「当然です。誰が赤ん坊だった貴方にミルクを飲ませたり、おしめを取り替えたりしてい
 たと思っているのですか」
 そう、母親は時計塔に留学中なのに私を妊娠、出産してしまい、それはそれは大変だっ
たようだ。母親が大規模な魔術の実験などで何日も工房に籠もるときは父とセイバーが交
替で育児に当たったらしい。王様が乳母というのはそれはそれで贅沢だろうが、アーサー
王に家政婦とベビーシッターをさせるのってどうよ?

「それらしい事件は無し、か」
 朝食を取り終わって、私はリビングでネットを検索する。ニュース系サイトやアングラ
系サイトを昼近くまで巡っても事件は見つからなかった。もちろん殺人や強盗が1件も無
い訳ではない。私の仕事向きのそれらしい兆候を持った事件が無いのだ。
「困ったわね・・・」
 私の仕事が無ければまあまあ平和だということだ。しかし平和では私とセイバーはご飯
が食べられなくなる。現に最近仕事が無いので来月の家賃が払えるか厳しくなってきた。
貯金を崩すのだけは避けたいのだが・・・。
 そのとき、仕事用の携帯電話が鳴った。私は電話をとる。
「もしもし」
「遠野だ」
 やはり遠野部長代理からだ。
「仕事ですか。」
「そうだ。吸血種が出た。場所と詳細については端末に送る。」
 それだけ言うと電話が切れた。あいかわらず無愛想な人だ。
「零、仕事ですか」
 声がした方を見るとセイバーがいた。真剣な表情で私を見ている。
「そうよ。10分で用意して」
 私がそう言うとセイバーは自分の部屋へ戻る。私も準備のために自室へ急いだ。
 部屋に戻ると私は部屋着から動き易いパンツスタイルへ着替える。そして必要な装備を
整える。まず身分証明ライセンス。これがないと始まらない。次に情報を知るための専用端末。端末
で詳細を知りながら、拳銃と弾倉を武器庫から出す。中学の卒業祝いにフルオート拳銃を
貰ったのは私ぐらいなものだろう。用意が終わると私はそれらを持って部屋をでた。


Fate/original sin連載スタートしました。
零(れい)は士郎と凛の娘で親元を離れてセイバーと同居しています。
月姫からは志貴が登場。私の作品では無口で無愛想な人物として書いています。
零とセイバーの「仕事」とは?第一話(2)へ続きます。

第一話(2)
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