15年前におきた米国大統領暗殺事件は世界の治安関係者を震撼させた。演説中の大統領
を聴衆の最前列にいた犯人が射殺したこともあるが、犯人が魔術で自分自身の姿を消し事
件が起きるまで誰も犯人の存在に気づかなかったことが恐怖させた。とうとう裏の世界と
テロリズムが結託したのだ。
 各国は対策に追われることになった。この国では危機管理局第四部付特務捜査官、通称
処理請負人スイーパーと呼ばれる賞金稼ぎバウンティハンターに似たシステムで対応に当たっている。私、衛宮零は
最年少の処理請負人だ。

Fate/original sin
第一話 処理請負人スイーパー(2)

 私はセイバーの運転するバイクの後ろに乗り、一路現場へ目指す。私は専用端末に送ら
れてきた情報をセイバーに話した。
「吸血種・・・死徒ですか」
「そうよ。昨日の深夜に警官が職務質問した人物が大当たりしたのね。ソイツは警官を殺
 した後、逃走したわ。地元の警察は非常線を張ってソイツを探して、やっと工業団地の
 一角に閉じ込めた」
 それにしても今回の現場は遠い。高速道路を走ってもかなり時間がかかる。現場近くの
 処理請負人スイーパーを派遣すればいいのに、と思うのだが・・・。別の事件にでも狩り出されて
いるのだろうか。
 高速道路に乗り、途中のサービスエリアで給油と遅い昼食を取る。セイバーは食事の質
に不満な様子だったが、サービスエリアでとる食事に味を期待するのが酷というものだろ
う。
 これから現場までは私が運転する、と言ってもセイバーは
「現場に着く前に零を疲れさせる訳にはいきません」
と言って運転を代わろうとしない。こういうときセイバーはかたくなに自分の意見を通そう
とするので好きにさせることにした。

 セイバーの運転でサービスエリアから再び高速道路に乗り、現場へと急ぐ。現場へ着い
た時には既に夕方になっていた。・・・まずい。相手は死徒だ。夜になってしまったら手
がつけられなくなる。日が出ているうちに決着をつけなければ。
 現場に到着し、人だかりをかきわけて封鎖線の中に入る。
「君、ここは立ち入り禁止だ。入っちゃいかん」
 また、例のごとく制服警官に止められた。私は
「私は特務捜査官です。危機管理局の乾監督官はどこ?」
 そういって身分証明ライセンスを警官に見せる。セイバーも特務捜査官補であることを示す
身分証明ライセンスを見せた。
処理請負人スイーパー・・・こんな子供が・・・?」
 警官はそう言ってライセンスと私たちを見比べている。私たちが処理請負人スイーパーであること
が信じられないようだ。無理もないが私たちも仕事だ。私は警官を無視して封鎖線の奥へ
歩いていった。

 しばらく歩くと乾監督官を見つけた。警官たちとパトカーのボンネットの上に地図を広
げてそれを見ている。どうやら臨時の指揮所らしい。乾監督官が私たちに気づいて
「よぅ」と声をかけてきた。
「遠いところをご苦労さん」
歩み寄った私たちに乾監督官はねぎらいの言葉をかける。いい歳をしたオジサンなのに相
変わらず髪を赤く染めてピアスをつけたその姿はチンピラのようだ。胸につけている危機
管理局のIDカードが無ければつまみ出されていることだろう。
「それで状況はどうなんですか」
 私は訪ねる。
「あまりよくないな」
 乾監督官はそう言うと難しい顔をした。
「2時間ほど前に別の処理請負人スイーパーを封鎖線の中に入れたんだが、それきりなんの音沙汰も
 ない」
 やっぱり。私たちはバックアップ要員だったんだ。最初に派遣した処理請負人スイーパーで解決し
ていれば移動の途中で私たちは回れ右をさせられていただろう。だがこの状況では返り討
ちにあって殺されていることは間違いない。
 私の不満げな表情に気づいたのか、乾監督官は苦笑を浮かべて私に言った。
「悪く思うな。念を入れておくのは当然だろ。それに」
 そこで言葉を区切ると乾監督官は私とセイバーに顔を寄せるよう身振りで示す。私とセ
イバーが顔を寄せると声を潜めて言う。
「第一部が動き出してる」
「本当ですか?」
 私は驚きの声をあげる。危機管理局第一部。国内のテロ活動や凶悪犯罪に対処する部署
だ。今回のような『理解できない』事案に対処する、私たち処理請負人スイーパーの所属する第四部
とはなにかと折り合いが悪い。なんでも第一部の部長はキャリア官僚の出身で、蒼崎部長
を筆頭にどこの馬の骨ともわからない人間が多くいる第四部が気に入らないらしい。
重装対策部隊HETTを前進待機させつつあるって話だ。部長と遠野が介入して止めているよう
だけどな。それもいつまで持つやら」
 乾監督官はそこまで言うと、人の悪い笑顔をつくって言った。
「で、だ。万事解決してめでたしめでたし、で終わるか、それとも第一部にお株を奪われ
 て大恥をかくか、お前たちにかかっているわけだ」
 そして真剣な表情になると
「日没までに解決しろ。いいな」
上司の口調で言った。
 私はため息をついた。組織間の紛争にまきこまれるのはごめん被りたいが、家賃のため
にも、そして名誉のためにもこの事件を解決しなければならないようだ。
「それじゃ出撃しましょうかセイバー。私たちの名誉のために」
 私はそばにいたセイバーに声をかける。セイバーは「ええ」と答えると一緒に最終封鎖
線へ歩き出した。


第一話(2)です。命の危険もありえる「仕事」をしている零とセイバー。
志貴に続き有彦が登場。零がオジサンと言ったとおり年齢は高めの設定です。
特務捜査官、危機管理局、監督官etc.独自の用語がたくさん出てきました。
用語解説が必要ですね・・・。
第一話(3)ではいよいよ零の能力が明らかになります。

第一話(3)
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