・危機管理局は任務の特殊性にかんがみ、任務を実行する特務捜査官を任命することができる。
・特務捜査官は危機管理局部長の推薦によって危機管理局局長が任命する。
・特務捜査官の資格、身分、待遇、報酬は特別公務員法に定める。
・特務捜査官は自らを補佐する者として、特務捜査官補を一人自らの責任において任命す
 ることができる。
・特務捜査官補の資格、身分、待遇、報酬は特務捜査官のそれに準ずるが、特務捜査官補
 の単独での任務行動は認めない。
・特務捜査官および特務捜査官補が任務行動の結果死亡したり、あるいは肉体的障害や精
 神的障害を負っても危機管理局は責任を負わない。
                                  ※特務捜査官規約よ り抜粋

Fate/original sin
第一話 処理請負人スイーパー(3)

 最終封鎖線をくぐり、私は専用端末に任務の開始を入力し危機管理局に送信する。工業
団地は警察によって封鎖され無人になっているから寂寥感がつのる。でもかすかに気配が
する。死徒の気配が。
「この国の公的組織は相変わらずですね。縄張り意識だけが強い」
 不意にセイバーがつぶやく。
「仕方ないわよ。これでもだいぶ改善されたみたいだけど」
 そういえば以前、危機管理局第四部の前身である内閣治安対策室がこういった
『理解できない』事件を扱っている時代には周囲の無知と無理解で大変だった、と蒼崎部
長が愚痴を言ったことがある。そういう時代に比べたら私たちは恵まれているだろう。

 しばらく歩いて待ち伏せによさそうな路地を見つけた。私とセイバーは路地に入ると中
程まで歩いて止まる。
「ここに追い込みましょう。セイバーはヤツをここまで追い込んで。私が始末する。
 ・・・用意はいい?」
 私はセイバーに声をかける。セイバーは「はい」と返事をすると持っていたアジャスター
ケースから両刃剣をとりだす。シュトラウス謹製の魔剣だ。
 かつてセイバーはサーヴァントとして魔力で編まれた鎧をまとい、エクスカリバーを
て聖杯戦争を戦ったが、母親から必要最低限の魔力しか供給されていない今はそれはでき
ない。だから相棒パートナーの私が何とかしなければならない。

「我が身は闇なり」
 私の言葉と体の中で何かが湧き出るイメージを合図に魔術回路を起動する。そして両方
の手のひらを合わせ魔術回路を短絡ショートさせる。・・・手のひらの間から溢れた魔力が紫 電スパーク
なって光り、魔術回路に沿って激痛が走る。それに耐えて短絡ショートさせた回路にさらに魔力を
送り、循環させて魔力を増幅する。

  回路循環による魔力増幅サーキュレーション・オーバードライブ

 これが魔術師として出来損ないの私が編み出した特殊技能スキル。魔力の瞬間最大出力は他の
どんな魔術師にも勝てる自信がある。
 私はセイバーに触れ、十分に増幅した魔力を与える。
「10分でケリをつけて」
 私がそういうとセイバーはひとつうなずいて走り去った。十分な魔力を得たセイバーは
人間ではあり得ない速度で走り、あっという間に見えなくなる。
「・・・ぅ・・・」
 私は体中に走る痛みに耐えかね、壁に寄りかかる。回路循環による魔力増幅サーキュレーション・オーバードラ イブは魔術回路
はもちろん身体にも多大な負担をかける。激痛でショック状態に陥り、心臓は早鐘はやがねのよう
に鼓動している。さらに発汗と体の震えが止まらない。・・・何度も深呼吸を繰り返し、
体調と気分を落ち着かせる。痛みが収まってくると心臓の鼓動も収まり、汗が引いていく。
私は感覚を研ぎ澄ましてセイバーと死徒の気配を探る。どうやらセイバーは死徒を発見し
交戦を開始したようだ。私はホルスターから銃を抜いて弾倉を抜き取り銃弾を確認する。
銃弾を確認すると再び弾倉を銃に戻す。セイバーと死徒が交戦している音が聞こえてきた。
徐々に音が大きくなって来る。・・・もう気配を探る必要もない。私は銃を両手で構える
と路地の入り口を照準した。

 路地の入り口に人影が現れた。セイバーに追われてきた死徒だ。死徒は私の存在に気づ
き慌てて逃げようとする。だがもう遅い。

  バララララララッ!

 私がフルオートで撃った銃弾は寸分違わず死徒に命中し、死徒はたまらず転倒する。私
は死徒に接近しつつ撃ち尽くした弾倉を捨てて再装填する。
 死徒は滅んではいなかった。なんとか逃走しようと起きあがろうとしている。私は再び
銃を発砲した。

 合計30発以上の銃弾を浴びても死徒はまだ滅んではいなかった。しかもその中の10発は
対吸血種弾AVBなのにも関わらずだ。
対吸血種弾AVBで滅ぼせないなんて・・・」
 困った。対吸血種弾AVBで滅ぼせないとなるとあとは『とっておき』を使うしかない。でも
それは使いたくはない。なにせ17発で価格が家賃の半年分もするのだ。
「セイバー、とどめを刺して」
 駆け寄ってきたセイバーに私は死徒に魔剣でとどめを刺すように言う。しかしセイバー
は悔しそうに首を横に振った。
「だめです零。先ほどの戦闘で魔力を使ってしまった。もう剣を振るうだけの魔力が残っ
 ていない」
 いまセイバーが持っている魔剣は使用者の魔力を吸収して絶大な威力をふるう。セイバー
にとってこれ以上魔力を失うことはこの世に現界できなくなることを意味する。しかし私
が再びセイバーに魔力を与える時間的余裕はなさそうだ。
「仕方ない・・・」
 私は銃をホルスターにしまうと専用端末をセイバーに渡した。これから私が死徒を滅ぼ
す光景を専用端末で録画しなければならない。反吐がでるほど嫌な作業だが、報酬を受け
取るためには証拠が必要なのだ。

 私は仰向けに倒れた死徒の側に歩み寄る。・・・よく見ると私と同世代の女の子だ。髪
をツインテールにしていて、どこかの学校の制服を着ている。それらも私に撃たれて流し
た自分の血に汚れて台無しだ。死徒は歩みよってきた私を見てなにか言いたそうだったが、
弱々しく速い呼吸のせいでなにも言えそうになかった。
「あなたも被害者よね。でも同情はしないから」
 この死徒は別の吸血種に襲われて血を吸われた。普通なら死者となって無差別に人を襲
う存在になるのだが耐性があったのだろう。死者にならず、自我を持つ死徒となった。し
かし吸血衝動には勝てなかったようだ。この死徒のような不幸をこれ以上生まないために
も、滅ぼさなければならない。

「我が身は闇なり」
 私は再び魔術回路を起動する。そして片膝をつくと倒れている死徒に向かって両手の手
のひらをかざす。
「我が闇は魔を滅す」
 私の言葉と同時に手のひらから黒い霧が現れる。それはただの黒い霧ではない。あらゆ
る事象を無効化キャンセルする闇。私はそれを倒れている死徒に向かって放つ。死徒の体が闇に覆わ
れていく。
 死徒の体を覆っていた闇が晴れると、そこには何も無かった。死徒は私の闇によって
消去キャンセルされてゼロに戻ったのだ。ただ地面に流れた血痕だけが残ってい た。
 これが私の魔術ちから処理請負人スイーパーをしている理由。・・・そして遠 坂を継げなかった原因だ。

第一話 了


第一話終了です。考えていることを文章にするって難しい・・・。
第二話では零が特務捜査官になるまでを書く予定です。



第二話(1)
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