私は父に引き取られ育てられることになったが、母親とは絶縁状態になったから衛宮家
には父ひとり子ひとりになった。父はすでに国際連合UNの職員をしていて帰国するのは月に
1回あるかどうかだったから、藤村組の姐さんや間桐の小母さんといった様々な人が私の
世話をしてくれた。その中でも頻繁に通って来て私の世話をしてくれたのはかつて乳母役
だったセイバーだった。
 遠坂凛ははおやの使い魔なのに私の世話のために衛宮家に通うという、自らの立場を危うくする
ような行動なのにそれでもセイバーは衛宮家へ来てくれた。・・・セイバーは私にとって
本当のお母さんだ。

Fate/original sin
第二話 回想(2)

「お前の魔術を、実力を見せてみろ」
 そう言うと蒼崎部長は右手を私に向けて突き出した。蒼崎部長の右手に魔力が集中し、
光り輝く光弾となる。蒼崎部長はその光弾を私に向かって撃ってきた。
「うわぁ!」
 私は間抜けな声を上げて光弾を避ける。私に命中し損ねた光弾は私の背後の柱に当たり
爆発した。コンクリートの破片をまき散らし、よく見ると中の鉄筋まで破壊されている。
・・・冗談じゃない。あんなのが命中したら手足ぐらいは簡単にもぎ取られてしまう。驚
いている私に蒼崎部長は次々と光弾を撃ってくる。私は慌てて柱の陰に隠れた。
「どうした。逃げて隠れるのがお前の魔術なのか」
 蒼崎部長は光弾を撃つのを止めて私を挑発する。蒼崎部長の光弾は威力も大きく、狙い
も正確で明らかな殺意がある。このまま隠れていてもあの光弾を連射されてはいずれ柱は
破壊されるだろう。私は舌打ちをすると反撃をする覚悟を決めた。
「我が身は闇なり」
 私は魔術回路を起動する。そして隠れている柱に両の手のひらを当てると「我が闇は穴
穿うがつ」の言葉を合図に闇を放つ。鉄筋コンクリートの柱が私の闇によって消去キャンセルされて
穴が穿うがたれていく。大量の魔力を消費して私が通れるぐらいの穴が空いた。闇が柱を貫通
するのもそこそこに私は開いた穴を通り抜け、落ちていた鉄パイプを拾って蒼崎部長に向
かって突進した。蒼崎部長はてっきり私が柱の両側のどちらかから飛び出してくると思っ
ていたのだろう。柱に穴を空けて飛び出してきた私に反応が遅れた。私はその間に蒼崎部
長との距離を詰め、蒼崎部長の頭めがけて鉄パイプで殴りつけた。

 キィィン!

「え?」
 私が殴りつけた鉄パイプは頭をかばった蒼崎部長の左腕にあたり、甲高い音をたてて私の
手からはじき飛ばされた。まるで鉄板を叩いたような感触。蒼崎部長は動きの止まった私
の襟元を掴むと自分に引き寄せる。喉が締め付けられ、息苦しさに喘ぐ私に蒼崎部長は言
った。
「面白い魔術だな。しかし服に魔力を通して強化していることも分からないのか」
 ・・・魔力の高まりと共に蒼崎部長の髪や服が紅くなったのはそのためか。だけど私は
師から魔術を学んだことのない。そのため当時は知らなかった。そんな私の様子に失望し
たのか、蒼崎部長は私の襟元を掴んだ右手に魔力を集中し始めた。私の首をふき飛ばすつ
もりか!私は蒼崎部長の右手を両手で掴むと「我が闇は力を滅す」の言葉を合図に闇を放
った。

 ジジジジジ!

 奇妙な音と共に私の闇で蒼崎部長の右手に集められた魔力が相殺キャンセルされる。蒼崎部長は
弾かれるように私を掴んでいた右手を離した。私の闇で右手の皮膚までも消去キャンセルされたの
か出血している。私は息苦しさから解放され喉をさすりながら咳き込んだ。蒼崎部長は私
を厳しい表情で見ながら戦闘態勢を解く。髪の色が紅から黒に戻り、スーツの色も元に戻
っていく。私も痛む喉をさすりながら「闇は我が身に還る」とつぶやいて魔術回路を停止
した。蒼崎部長は出血を止めるためにハンカチを右手に当てて、穴の開いた柱を見ながら
言った。
「コンクリートの柱に大穴を開け、私の魔力を相殺し、手に傷を付けた・・・」
 蒼崎部長は私を睨んで言う。
「お前の魔術は、その黒い霧は何なんだ」
 蒼崎部長の問いに私は慎重に言葉を選んで答える。
「私は魔力を闇に転換できます。この闇はあらゆる事象を無効化キャンセルできます」
 蒼崎部長は私の言葉に目を大きく見開くと矢継ぎ早に質問してきた。
「魔力を闇に転換、と言ったな。触媒も無しに転換できるのか」
「はい」
「あらゆる事象を無効化キャンセルする、とはどういうことだ」
「生物や無生物、魔力のようなエネルギー、この世界に存在するすべてのものを無かった
 ことにできます」
 そこまで聞くと蒼崎部長は天を仰ぎ、大きなため息をつくと何事か呟きはじめた。「や
っぱりそうか」「父親そっくりだ」などという言葉が私の耳に入ってくる。気になったが
私は何も言わず黙っていた。・・・私が蒼崎部長に言った言葉は嘘ではないが、真実をす
べて話したわけではない。ここで私が蒼崎部長に質問して、藪をつついて蛇が出るような
結果になっては困る。
 やがて蒼崎部長は後ろに控えていた遠野部長代理と、乾監督官の方を向いて「どう思う?」
と聞く。乾監督官は肩を竦めると「遠野に任せますよ」と言った。遠野部長代理は私を見
つめながらしばらく考えていたが、やがてぽつりと言った。
「彼女は危機管理局第四部われわれにとって大きな戦力になると思います」
 遠野部長代理の言葉を聞いて蒼崎部長はじっと遠野部長代理を見ていたが、やがて「そ
うだな」と言うと私の方を向いて言う。
「私が時計塔の魔術師でなくてよかったな。でなければお前は解体バラされて標本にされてい
るぞ」
 そして蒼崎部長は私に言った。
 「テストは合格だ」
 こうして私はテストに合格し、処理請負人スイーパーになるための道へ踏み込んだ。

 特務捜査官に内定した私は帰国した父にこれまでのいきさつを話した。父は私に普通の
人生を送ってほしかったのだろう。「そんな危険なことはダメだ」と猛烈に反対した。私
がいくら話しても許してくれない。そのうち蒼崎部長は私の父への説得がうまくいってい
ないことを知ると自ら父に会って『説得』を始めた。・・・私の魔術を見たことを父に言
って「許さないと時計塔に密告するぞ」というのは『説得』ではなくて『脅迫』だと思う
のだけど。やがて父は私の意志が固いことと、蒼崎部長の『説得』で処理請負人スイーパーになるこ
とを許してくれた。

 父の許可を得た私は処理請負人スイーパーになるための訓練を開始した。蒼崎部長曰く
「お前の魔術は強力だが他人に見せて良いたぐいのものじゃないし、魔術以外は素人だ。素
人の未成年を処理請負人スイーパーにしてすぐに死なれたら、局長ボスに推薦する私の立場がない」
 ・・・だそうだ。蒼崎部長の言うことはもっともだが、なにか引っかかるのは私の気の
せいだろうか。
 こうして私は魔術を蒼崎部長に、射撃と格闘を乾監督官に習うこととなった。私は学業
があったし、蒼崎部長も乾監督官も公務があったから主に深夜や休日に行われた。最初は
魔術の基礎である強化もロクに出来ない私をみて「こんな出来の悪い魔術師がいるとは思
わなかった」と蒼崎部長は頭を抱えたが、それでも訓練を繰り返すうちになんとか様にな
ってきた。
 射撃の訓練中に私がグロック18Cマシンピストルを使いたい、と言ったときの乾監督官の微妙な表情
が忘れられない。確かに米国大統領暗殺事件の犯人が使っていたから世間一般の評価は厳
しいが、藤村組の若い衆に撃たせて貰ったこともあるし、なにより大量の弾丸を一気に発
射して制圧するスタイルに惹かれたからだ。

 年が明けて2月に入り、授業がなくなると私は衛宮家を出て泊まり込みで訓練を受ける
こととなった。危機管理局近くのビジネスホテルを蒼崎部長に借りてもらい、家から持っ
てきた少ない荷物を部屋で開梱していると、扉がノックされる音がする。
「はい」
私は返事をして扉を開ける。そこには大きなバックを持ったセイバーが立っていた。


第二話(2)です。士郎が国連の職員になったのは「正義の味方」のカタチのひとつです。
戦闘の描写が説明書きみたいになってしまうのは作者の永遠の課題です。どうしても動き
のある描写ができない・・・。
第二話(3)ではセイバーが零のパートナーになることと、初任務までを書きます。

第二話(3)
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